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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)14007号 判決

原告

富田兵弥

代理人

高橋正則

被告

株式会社北辰電機製作所

代理人

三善勝哉

主文

(1)  被告は原告に対し金一〇三万七二三九円ならびに内金九一万七二三九円に対する昭和四三年八月三日以降、および内金一二万円に対する同四六年二月一九日以降、各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

(2)  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

(4)  この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

(一)  原告

(1)  被告は原告に対し金二八五万一五四七円および内金二五五万一五四七円に対する昭和四三年八月三日より支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とするとの判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(二)  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める。

第二  原告主張の請求原因

一、(事故の発生)

原告は左記の交通事故(以下「本件事故」という)によつて傷害を受けた。

(1)  発生日時 昭和四三年八月二日午後三時一五分頃

(2)  発生場所 東京都港区芝一丁目一四番一二号先国道(以下「本件道路」という)

(3)  加害車 普通乗用自動車(以下「加害車」という)

右運転者 須増中一(以下「須増」という)

(4)  被害者 原告(歩行中)

(5)  事故態様

本件事故現場は、歩車道の区分のある車道部分幅員29.10米の第一足浜国道上であるが、被害者は右道路を横断歩行中、被害者の右前方より時速六〇ないし七〇キロメートルで進行してきた加害車に接触、跳ね飛ばされ、路上に転倒した。

(6)  被害者

原告は本件事故のため大腿骨頸部骨折、頭部外傷、左第一・三・四肋骨々折、左肘・左肩擦過傷、肋膜炎の各傷害を受けた。そして、原告は右傷害の治療のため、昭和四三年八月二日より同四四年九月一六日まで入院生活を送らなければならず、しかも、右傷害は完治するに至らず、著しく歩行困難な症状および肋膜炎をいわゆる後遺症として残して症状を固定するに至つた。

二、(責任原因)

被告は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条に基づき、本件事故により蒙つた原告の損害を賠償すべき責任がある。

三、(損害)

(一)  治療費等 二七万八八七二円

(1) 治療費 一三万一九七二円

(2) 付添看護費 二万〇四〇〇円

原告の入院期間の昭和四四年八月二日より同年九月二日までの中一二日間は、娘の付添を必要とし、そのため一日当り一七〇〇円の割合による損害を蒙つた。

(3) 入院雑費 一二万三三〇〇円

原告の入院期間中一日当り三〇〇円の割合による金員が、入院生活に必要な日用品の購入などのため、支出のやむなきに至つた。

(4) 診断書等作成手数料

三、二〇〇円

(二)  休業損害

原告は、本件事故による受傷治療のため、次のとおり休業を余儀なくされ、そのため二八万円の損害を蒙つた。

(事故当時の職業)雑役夫

(事故時の月収)原告は事故当時右のような職業に従事し、月収として二万円をえていた。

(休業期間)昭和四三年八月から同四四年九月までの一四か月間

(三)  逸失利益

原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は三〇万三二三五円と算定される。

(事故時)七一歳

(推定余命)7.99年

(労働能力低下の存すべき期間)二年五か月

(収益)原告は本件事故当時前記のとおり雑役夫の職にあり、毎月二万円の収入をえていた。

(労働能力喪失率)五割

(右喪失率による毎月の損失額)一万円

(年五分の中間利息控除)ホフマン複式

(月別)計算による。

(四)  慰謝料

原告の本件傷害による精神的損害を慰謝すべき額は、前記の諸事情に鑑み二〇〇万円が相当である。

(五)  損害の填補

原告は、本件事故により蒙つた損害に関し、既に、被告より三一万〇五六〇円の支払を受けたので、これを損害額から控除する。

(六)  弁護士費用

被告は以上の損害賠償の任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、原告は四万五〇〇〇円を手数料として支払つたほか、成功報酬として二五万を支払うことを約した。

四、(結論)

よつて、原告は被告に対し、金二八五万一五四七円および内金二五五万一五四八円に対する事故発生の日以後の日である昭和四三年八月三日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  被告の答弁および主張

一、(請求の原因に対する答弁)

請求の原因第一項の(1)ないし(4)の事実および第二項の事実ならびに第三項の(五)の事実は認める。

同第一項(5)の事実は争い、同第一項(6)および第三項の(一)ないし(四)、(六)の各事実は知らない。原告の肋膜炎と本件事故との因果関係は否認する。

二、抗弁

(一)  過失相殺

本件事故発生については、後記のとおり被害者たる原告の過失が寄与していることは明らかであるから、損害賠償額の算定については、これが斟酌されるべきである。

すなわち、本件事故現場付近は横断禁止区域に指定されていて、歩道上には、ガードレールが設置され、かつ付近には歩道橋が存するのであるから、歩行者としては右歩道橋によつて横断すべき注意義務があるのに、原告はこれを怠り、漫然と同所を横断した過失がある。一方須増は加害車を運転して進行中、左斜前方の先行車が左に進路を変更した直後、同車の陰のいわゆる死角から出てきた原告に衝突したもので、同人の過失は僅少である。

(二)  損害の填補

被告は本件事故発生後次のとおり支払いをしたので、右額は控除さるべきである。

(1) 治療費 三六万五一六九円

(ア) 三万九九六〇円(東京都済生会病院に支払つた分)

(イ) 一三万五七六九円(カヤバ健康保険組合の治療費求償に対し支払つた分)

(ウ) 一八万九四四〇円(自賠責保険金)

(2) 付添看護費用 三万四一四〇円

(3) 雑費 四九〇〇円

(4) 賠償内金 二七万〇六〇〇円

第四  抗弁に対する原告の認否

抗弁(一)の事実のうち、本件事故現場付近が横断禁止場所であることは認めるが、その余の事実は争う。

本件事故現場付近には、右現場より約八〇メートル新橋寄りの地点に歩道橋が、約一〇〇メートル品川寄りの地点に横断歩道がそれぞれ設置されているが、右現場はそのほぼ中間点にあるため、従前から同所付近を徒歩または自転車で横断する者の数は極めて多い状況にあつた。他方須増は見通しの良い本件道路上を、一台の先行車の後を追走していたのであるから、安全な車間距離を保ち、かつ前方を注視してさえいれば、横断中の原告を発見でき、ひいては事故の発生を未然に防止することができたにも拘らず、右注意義務を怠り、かつ制限速度を超えた速度で漫然と進行したため本件事故を発生させたのであつて、同人には重大な過失がある。

第五  証拠関係〈略〉

理由

一、(事故の発生および責任原因)

(一)  本件事故の発生に関する請求の原因第一項の(1)ないし(4)の事実および被告の責任原因に関する請求原因第二項の事実は当事者間に争いない。

(二)  そこで、まず本件事故の態様について判断する。〈証拠〉を合せ考えると、本件事故現場は、歩車道の区分のある車道部分の幅員29.1メートルの見通しのよい通称第一京浜国道上で、その法定制限速度は時速五〇キロメートル、道路両側にはガードネットが張られて横断禁止の規制がなされている地点であること、須増は加害車を運転して時速約六〇キロメートルの速度で、先行するカローラ(以下「本件先行車」という。)と約一〇メートルの車間距離を保ちつつ品川方面に向い進行中、本件先行車が急に左に進路を変更した直後、約一五メートル前方を左から右に横断歩行している原告を発見し、直ちにハンドルを右に若干切りながら急ブレーキをかけたが間に合わず、自車前部のフエンダー、バンバー付近を原告の右腰に接触させて、原告をボンネットにすくい上げた末、停止時に路面に落下させたことが認められる。〈証拠判断・略〉

(三)  次に、原告の傷害の部位、程度について検討する。〈証拠〉によると、原告が本件事故によつて右大腿骨頸部骨折、頭部外傷・左第一・第三・第四肋骨々折・左肘・左肩擦過傷(以下、単に「右大腿骨頸部骨折等」という。)の各傷害をうけ、右傷害の治療のため昭和四三年八月二日より東京都済生会中央病院に入院したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

さらに、〈証拠〉を総合すると、原告は前記傷害の治療のため前記病院に入院中、約五か月後に右側の肋膜に肋膜炎を併発したこと、右肋膜炎は骨折した肋骨とは反対側に生じたものであつた事故による外傷とは直接の因果関係はないが、原告が本件事故前から右下肺野に非活動性の結核病巣を有していた(なお、老人が非活動性の結核病巣をもつている確率はかなり高いとされている。)ところ、入院治療中長時日の臥床を余儀なくされた(同病院における治療法は唯一のものではないが、通常の方法であつた)ため、当時七一才の高令であつた原告の身体の抵抗力が減弱した結果、結核病巣が活動的になつて結局結核性肋膜炎の発病を来たしたこと、そのため原告は昭和四四年一〇月一日まで同病院に入院せざるをえなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。以上の事実関係からすれば、本件事故が原告の前記肋膜炎の一因をなしていることは否定できないが、他方原告の体内に事故前から潜在していた非活動性の結核病巣が今一つの原因となつていることも明らかである。このようにある傷害が単に事故を唯一の原因として発生したのではなく、被害者自身の有する潜在的病巣、体質などの要因とからみ合つて発生したような場合には、その傷害に基づく損害全部を事故に因る損害ということはできず、事故が右傷害の発生に寄与している限度において相当因果関係が存するものとして、その限度で被告に損害賠償責任を負わせるのが、公平の理念に照らして相当と考える。そこで、本件についてこれをみると、〈証拠〉によると、本件事故の受傷による体力消耗と潜在的結核病巣とのうち、いずれが主たる原因ともいえない関係にあることが認められ、右事実に、前記の肋膜炎発病に関する経緯等を合わせ考えると、原告の肋膜炎に基づく損害については、本件事故がその発生に五割程度寄与しているとして、同損害の五割の限度で被告に賠償させるのが相当である。

二、(損害)

(1)  治療関係費

〈証拠〉によると、原告は(ア)前記の右大腿骨頸部骨折等の傷害に対する治療費および診断書代等として五万三〇六〇円を、(イ)前記の肋膜炎に対する治療費および診断書代として八万二二一二円を各支出したことが認められる。そして右の支出のうち(ア)の全額および(イ)の半額が本件事故と相当因果関係に立つ損害というべきであるから、原告の本件事故に基づく治療費等の損害は、合計九万四一六六円となる。

(2)  付添看護費

〈証拠〉によると、原告が東京都済生会中央病院に入院した当時、動作が不自由であつたため、原告の娘にあたる慎田みやえが約一二日間付添看護にあたつたことが認められるが、〈証拠〉によると、前記病院は完全看護のシステムをとつていることが認められるから、特段の事情のない限り、慎田の付添看護は原告にとつて必要であつたとは認められず、その損害を本件事故によるものということはできない。

(3)  入院雑費

〈証拠〉によると、原告は入院期間中、日用品等の購入等にあてた雑費として、一日約五〇〇円を下らない金員を支出していることが認められ、右認定に反する証拠はないところ、前認定の原告の傷害部位程度、入院期間に鑑みると、右のうち入院期間中一日当り三〇〇円の割合による金員(ただし、肋膜炎によるものは、その五割のみ)が、本件事故と相当因果関係ある損害とみるべきである。ところで、〈証拠〉を総合すると、原告の前記入院期間中、(ア)昭和四四年二月二四日頃までは右大腿骨頸部骨折等に関するものであるが(イ)それ以降は主として肋膜炎に関するものであることが認められるから、本件事故による受傷と相当因果関係に立つのは、(ア)の全部にあたる二〇七日間と(イ)の五割にあたる一〇二日間との合計三〇九日間とみるべきである。したがつて被告において賠償すべき入院雑費は、九万二七〇〇円である。

(二) 休業損害

〈証拠〉を総合すると、原告は本件事故当時萱場工業株式会社に雑役夫として勤務し、賞与を含めて二万円を下廻らない平均月収を得ていたが、本件事故による受傷のため前記の期間入院治療を余儀なくされ、その間欠勤して右月収をあげえなかつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。ところで、右入院期間のうち本件事故と相当因果関係があるのが三〇九日間であることは前記(一)の(3)の認定のとおりであるから、本件事故による原告の休業損害は二〇万円となる。

(三) 逸失利益

〈証拠〉によると、昭和四五年八月の時点において原告の右大腿骨頸部骨折の融合部が変形治癒の状態にあつて、右股関節の運動は中程度制限されており、右は労働災害補償保険法の障害等級第一二級七号の後遺障害に該当するが、爾後三か月間の訓練により階段の昇降ができる程度に回復すること、原告の右下肺野の結核性肋膜炎は同法の障害等級第七級五号に該当し、原告はいまなお結核治療のため入院中であるが、爾後一年六か月間抗結核治療法を行うことにより治癒するものと見込まれていることが認められ、右認定に反する証拠はなく、右認定を覆えすに足りる証拠もない。ところで、原告の右のような後遺症状がどの時点において固定したかは明らかでないが、原告の症状が鑑定時までにとくに悪化したと認めるべき特段の事情のない本件においては、原告主張の昭和四四年一〇月頃に固定したものとして逸失利益を算定するのが控え目な計算方法にもあたり妥当である。したがつて、前記認定事実を考え合せると、原告の前記後遺症は少くとも昭和四四年一〇月から同四七年二月までの二年四か月間存続し、右はなお原告の稼働可能期間中に属するものと認められ、前記認定の原告の各後遺障害の程度、回復の見込および本件事故が前記肋膜炎に対して有する相当因果関係の限度を総合勘案すると、本件事故による右後遺症存続期間中の原告の労働能力喪失の程度は、右期間を通じてみれば四五パーセントを認めるのが相当である。そこで、原告の右労働能力喪失による逸失利益を症状固定の時点において一時に支払をうけるものとして、ホフマン複式月別計算法により年五分の割合による中間利息を控除したうえ(小数点五位以下切捨)すると、二三万七、八八一円となる(20000円×0.45×26.4313=237881.7円)。

(四) 過失相殺

本件事故現場付近には横断禁止の規制がなされ、道路両側にはガードネットが張られていることは前記一の(二)の認定のとおりであるところ、〈証拠〉を総合すると、原告は本件道路を、同道路と幅員4.6メートルの道路が交差していてガードネットが中断している箇所から横断禁止規制に違反して横断しようとし、左方の安全は確認したものの、右方の安全を確認しないまま小走りに渡り始めたが、前記一の(二)の認定のとおり、折柄同所を進行中の本件先行車の運転者が原告を発見し急に進路を変更して高音を立てたのに驚いて立ちすくんだところ、約一〇メートル後から続いてきた加害車が避けきれずに原告に衝突したことが認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて、原告にも道路横断に際し横断禁止規制違反および右方安全不確認の過失があつたことは明らかである。しかしながら、〈証拠〉を総合すると、本件事故現場付近には横断歩道、歩道橋などはなく、新橋方面には約七四メートル離れた地点に最も近い歩道橋があり、品川方面には約一一九メートル離れた地点に最も近い横断歩道が設置されているに過ぎず、同所は歩行者等にとつて極めて横断に不便な場所であること、したがつて、本件事故現場付近はかなり交通量の多い地点であるのに、歩行者や自転車が時折あえて横断禁止の規制に違反して同所を横断していることが認められる。〈証拠判断・略〉。そこで、以上認定の各事実および原告が前記のとおり事故当時七一才の老人であつたことならびに前記一の(二)認定の本件事故態様を総合勘案すると、原告の損害のうち五割について過失相殺するのが相当である。ところで、過失相殺は、本訴請求にかかる損害のみならず請求外の損害についてもなすべきものと解するところ、〈証拠〉によると、原告の治療費のうち一三万五七六九円は、カヤバ健康保険組合において病院に支払つた後、被告に対し求償し、被告において支払つたが、右治療費は原告の本訴請求外の損害であることが認められる。また原告の治療費のうちさらに一八万九四四〇円が前記健康保険組合によつて支払われたが、結局自賠責保険金によつて填補されたことは当事者間に争がなく、右事実および弁論の全趣旨によつて右治療費が本訴請求外の損害であることが推認される。さらに〈証拠〉によると、被告は原告の付添看護料として付添人仲宗根松子に対し合計三万四一四〇円支払つたが、右は本訴請求外の損害であることが認められる。したがつて、原告の財産的損害(弁護士費用を除く)は、右の請求外の損害三五万九三四九円を加算すると合計九八万四〇九六円となるから、五割の過失相殺をすると、四九万二〇四八円となる。

(五) 慰謝料

原告が本件事故により前記の各傷害をうけ、前記のとおり長期間の入院を余儀なくされたうえ、いまだに前記の後遺症を有しており、復職するに至つていないこと、しかし、前記傷害のうち、結核性肋膜炎は本件事故とは五割程度しか因果関係がないこと、原告には本件事故発生につき前記のような相当大きな過失があることはいずれもすでに認定したとおりであり、以上の各事実に本件事故態様その他諸般の事情を総合勘案すると、原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰謝料としては、一一〇万円が相当というべきである。

(六) 損害の填補

原告の本訴請求外の損害について治療費等として合計三五万九三四九円の支払がなされたことは前記において認定したとおりである。このほか原告の本訴請求にかかる損害について、被告が原告に対し治療費等として合計三一万〇五六〇円を支払つたことは当事者間に争がなく、さらに、〈証拠〉によると、被告が原告に対し雑費(クリーニング代)として合計四九〇〇円支払つたことが認められる。したがつて、原告前記損害総額から右の填補分六七万四八〇九円を控除すると、残額は九一万七二三九円となる。

(七) 弁護士費用

被告が以上の損害賠償額について任意の弁済に応じないので、原告が弁護士たる本件原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、当事者が弁護士に訴訟追行を委任するばあい、弁護士に相当額の弁護士費用の支払いを約することは公知の事実であり、右事実と弁論の全趣旨を合せ考えると、原告も少くとも後記認定程度の弁護士費用の支払いを約したことが推認できる。そして、本訴訟の難易度、前記の請求認容額、本件訴訟の経緯等に鑑み、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は一二万円と認めるのが相当である。

三、(結論)

以上判示のとおり、被告は原告に対し本件事故による損害賠償として一〇三万七二三九円およびうち弁護士費用を除く九一万七二三九円に対する本件事故発生の日以後の日である昭和四三年八月三日以降、うち弁護士費用一二万円に対する本判決言渡の日の翌日である同四六年二月一九日以降各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があることが明らかである。

よつて、原告の本訴請求は、右の限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。(加藤和夫)

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